先行配信vol.1

今回は11/22(金)発売の山田悠介『貴族と奴隷』の内容の一部を先行配信します。全6回を以下のように配信する予定です。 

 

11/5  (火)先行配信vol.1    11/7   (木)先行配信vol.2

11/12(火)先行配信vol.3    11/14 (木)先行配信vol.4

11/19(火)先行配信vol.5      11/21 (木)先行配信vol.6 

 

それでは『貴族と奴隷』の世界をご堪能ください。 

 

 

 僕は生まれつき目が見えない。弱視ではなく全盲だから微かな光すら感じることはない。 
  神様はなぜか僕に視力を与えなかった。
  忘れたのかな。
  それとも試練を与えたのかもしれない。
  ずっと暗闇の世界が当たり前だと思っていた僕は、三歳の頃母さんから目に障害があることを知らされた。その後、その意味を理解したときは本当に悲しくて、目が見える人たちが心底羨ましいと思った。
  その頃はまだ幼かったから、いつか皆と同じように目が見えるようになるかもしれないとどこかで希望を抱いていたと思う。
  一生目が見えないという運命を受け入れたのはいつの頃だろう。
  そのとき希望を失ったわけだけれど、だからといって人生に絶望はしなかった。
  皆は僕が可哀想と言うけれど、僕自身は目が見えないという運命を悲観したことはないし、誰かを恨んだこともない。
  僕はけっこうあっけらかんとしている。ああ目が見えない一生が僕の人生なんだ、と思っている程度で深刻に考えてはいない。
  僕と同じ学校に通う弱視の人や全盲の人たちも基本そうだ。人生に絶望している人はいない。常に明るい気持ちを持って生きている。
  確かに目が見えないのはとても不自由だし、健常者から見れば相当苦労しているように見えるだろう。
  ただ僕は自分が苦労してきたとは思っていない。僕の苦労は大した苦労ではないだろう。 
  だってどう考えたって目の見えない僕よりも母さんのほうが苦労している。
  母さんは目の見えない僕をたった一人で育ててきたのだから。
  僕の父さんは僕が一歳になる直前に交通事故で死んでしまったそうだ。
  女手一つで目の見えない僕を育てるのは相当大変だったろう。
  普段の僕の世話や金銭面は元より、ときに心無い人間たちから嫌な思いをさせられたことだってあったろう。いや今もきっとあるはずだ。
  それでも母さんは弱音を一切吐かず、不満を口にせず、この十四年間僕の目になって支えてきてくれた。
  恥ずかしいから直接伝えることはないけれど、心の中では常にありがとうって思っている。母さんの子供として生まれてきて本当によかったと思っている。
  僕にはいくつか願い事があるのだけれど、本当に神様がいて叶えてやると言われたら真っ先にこう告げる。
  一瞬でいいから母さんの顔を見てみたいと。